塩化ビニルを10年以上使用している労働者について、特定化学物質健康診断において、胸部レントゲン検査を実施する意義を教えて下さい。
また、その2次検査においては、どのような所見であれば塩化ビニルによる身体影響ではないといえるのかを教えて下さい。
A3-B-15
塩化ビニル(クロロエチレン)は肝血管肉腫が有名ですが、疫学的研究で、肺がんが有意に増加した、という報告もあり(新しい文献では否定的なものもありますが)、健康診断において実施する意義は肺がんの精査になります。
また、肺がんを疑う所見の場合、所見の特徴によって塩化ビニルによる身体影響ではないと言う事は難しく、影響があるかどうかは、結局のところ曝露があったのかどうか、で判断される事になります。
エチルベンゼンの健康診断を実施したところ、労働者2名について尿中マンデル酸の量が、0.5g/l〜1.5g/l でした。他の項目について所見はありませんでした。
エチルベンゼンについては尿中代謝物の分布区分が示されていませんが、どのように評価するのですか?また、二次健診を実施する場合、どのように実施するのですか?
A3-B-14
1)尿中代謝物検査の分布区分について
有機溶剤中毒予防規則において規定される有機溶剤の場合、代謝物検査に分布区分があり、それにより曝露量を推定できるようになっています。
しかしながらエチルベンゼンが1%超の場合、特定化学物質になるので、分布区分は法律上ありません。
また、学術的にも、
スチレンの代謝物→マンデル酸
エチルベンゼンの代謝物→マンデル酸
と一つの分子から一つの分子に変化するのは同じですが、尿だけではなく、呼気等でも体外に出ることから、マンデル酸だけでエチルベンゼンの曝露量を推定する実験・データが少なく、特定できません。また、スチレンの発がん性はマンデル酸までの代謝経路中にあるスチレンオキシドであるため、マンデル酸の量を診る意味がありますが、エチルベンゼンにはそのようなものはありません。
結論ですが、エチルベンゼン曝露作業者において、マンデル酸が出ているか出ていないか、が重要であり、出ているなら直接作業環境測定結果などを見て評価し、マンデル酸の量によっては特に評価しないということになります。
2)二次健診の実施方法は以下になります。
@作業条件の調査
A医師が必要と認める場合は、
・神経学的検査
・肝機能検査又は腎機能検査
@については、「労働者の当該物質へのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであること」とあり、具体的には「前回の特殊健康診断以降の作業条件の変化、環境中のエチルベンゼンの濃度に関する情報、作業時間、ばく露の頻度、エチルベンゼンの発生源からの距離、呼吸用保護具の使用状況等について、医師が主に当該労働者から聴取することにより調査するものであること。このうち、環境中のエチルベンゼンの濃度に関する情報の収集については、当該労働者から聴取する方法のほか、衛生管理者等からあらかじめ聴取する方法があること」とあります。しかし、健診実施中にこれらを行う事は難しく、専属の産業医ならともかく、健診時の診察医としては、保護具の使用状況(マスクをつけているか)、作業頻度、作業時間を聴取し、産業医へ情報提供して産業医の総合判断にゆだねるのが良いと思います。
(仮の判定として、マンデル酸が上昇しており、エチルベンゼン以外の有機(スチレン等)の使用がなければ、管理B(2)でよいと思います)
Aについては、エチルベンゼンは中枢神経系に作用し、鎮静・閉眼・知覚鈍麻が指摘されており、鎮静・閉眼が診察しにくいことから、知覚鈍麻、特に神経の長い下肢の腱反射(膝蓋腱反射は膝疾患がないことを確認して行う)を診ればよいと思います。
また中枢神経系であることから、両側は不要で、片側でよいと思います。
肝機能についてはAST/ALT、γ−GTPになります。
腎機能については、BUN、Cre、尿蛋白になります(BUNはなくてもよい、尿細管障害のため)
特定化学物質障害予防規則における第三類物質の健康診断は必要なのでしょうか。
特定化学物質障害予防規則における第三類物質の健康診断については、必要ありませんが、事故が発生してばく露した場合は、特化則第42条の緊急診断が必要となります。特化則等の特殊健康診断の他に、労働安全衛生規則第45条において、特定業務従事者の健康診断に係る規定があります。この規定に該当する場合は、一般的健康診断と同じ健康診断を実施することになります。
▲目次へ戻る▲じん肺健診は、普通の病院で受診しても良いでしょうか。
じん肺の健診項目を行える病院であれば受診可能ですが、胸部エックス線写真を見て、じん肺の所見を判断できるかどうかが問題であるため、じん肺健診を行っている病院で受診することをお勧めします。
▲目次へ戻る▲健康診断実施後、事業主が有機溶剤健康診断個人票を保管する場合、医療機関作成の有機則関係/様式第3号の書式を使わないと規則違反になりますか。 様式第3号に準じた個人票でもよいのでしょうか。
有機則の所定様式に準じた医療機関作成の個人票でも問題ありません。外の健康診断個人票も同様です。法令様式というのは、法律で様式を定めていますが、全く同じ様式でなければ駄目ということはなく、法令様式に準じた書式を自社で作成しているケースも多くあります。
▲目次へ戻る▲平成22年7月1日にじん肺健康診断の判定基準が見直され、健康診断結果等の様式が変わるとききました。結果票はどこで入手できますか。
「じん肺健康診断結果証明書」は、厚生労働省のホームページから入手できます。
▲目次へ戻る▲有機溶剤やじん肺の健診は、周辺作業者も問診個人票を作成していますが、特化物健診でも作る必要がありますか?
特化物の健診は、「製造、取り扱い」する作業者が対象となります。このため、近くで作業する者は対象とはなりません。
▲目次へ戻る▲特化則第39条では、「常時従事する労働者」に特殊健康診断を実施するとされていますが、どの程度が該当しますか?
特定化学物質障害予防規則第39条の「常時従事する労働者」とは、「継続して当該業務に従事する労働者」のほか、 「一定期間ごとに継続的に行われる業務であってもそれが定期的に反復される場合には該当する」とされています。 したがって、当該業務に従事する時間や頻度が少なくても、定期的に反復される作業であれば、特殊健診の対象になります。 なお、有機溶剤の特殊健診における「常時従事する労働者」も同様に考えることになります。
▲目次へ戻る▲派遣元から、派遣社員の有機溶剤健診結果を提出するよう求められました。どのような決まりがありますか?
派遣労働者の健康診断は、一般健康診断は派遣元に、特殊健康診断は派遣先に、実施する義務があります。 派遣先では、特殊健診を行ったときは、健診結果を記載した書面を派遣元に送付しなければなりません (労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第45条第10項)。 また、医師の意見も同様に通知しなければなりません(同条第14項)。結果に基づいた事後措置も、派遣先が講じます。 派遣元には受けた書面を保存する義務があります。したがって、派遣先労働者の有機溶剤健診結果は、 派遣元に書面で遅滞なく送付しなければならないことになります。
▲目次へ戻る▲じん肺健診は、一般健診のX線検査で代用できませんか?
一般健康診断のX線撮影は間接撮影で、じん肺健診は直接撮影です。 じん肺の所見は間接撮影ではチェックできません。したがって、代用はできません。
▲目次へ戻る▲吹付けされた石綿が劣化して飛散しないように、石綿を封じ込めする作業を外部業者に委託しましたが、作業状況を監督する職員についても石綿に関する特殊健康診断の必要はあるでしょうか。
但し、常時作業を監督する必要はなく、時折、作業を監視するだけです。
石綿等を取り扱い、又は試験研究のため製造する業務に常時従事する労働者及び在籍労働者で、過去においてその事業場で石綿を製造し、又は取り扱う業務に常時従事したことのある労働者については、石綿障害予防規則第40条の規定により、雇入れ時又は当該業務への配置替えの際及び定期(6ヶ月以内ごとに1回)に、石綿に係る健康診断を受けなければならないことになっています。
では、具体的に「石綿等を取り扱う作業」とはどのような作業でしょうか。
厚生労働省のリーフレットには、「石綿にばく露する可能性がある作業」として以下のようなものを挙げています。
「封じ込め作業」とは、吹付け石綿層をそのままにし、その表面に薬液を塗布し塗膜を形成したりして飛散を防止する工法ですが、その際、石綿繊維が飛散するおそれがありますので、石綿取扱い作業に該当します。
またご質問のように、直接石綿等は取り扱わないものの、粉じんにが発散する場所において作業を監督する業務も、上記の]のように「周辺等において、間接的なばく露を受ける可能性のある作業」とされています。
実際に、このような周辺における業務(周辺業務)に従事していた者にも胸膜プラークや石綿関連疾患を患ったという臨床例が認められています。
このため、従来は石綿等を直接取り扱う業務に限られていた健康診断の義務付けについて再検討がなされ、平成21年4月1日からは健康診断の対象業務を、「石綿等の取扱い又は試験研究のための製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務」に改められる予定です。
厚生労働省が周辺業務の範囲として例示しているのは、@車両・船舶内の区切られた空間における石綿を取り扱う業務、A石綿の吹き付け作業、B石綿製品が被覆材または建材として用いられている建物などの解体作業、C石綿製品の製造工程における作業の4つです。
従って今後は、これら業務の周辺で作業をしていた場合は、石綿を取り扱わない別業務であっても石綿則による健診の対象となります。
但し、こうした場合であっても「常時従事する」労働者が対象ですから、臨時に作業を監視する程度では、健康診断の義務づけはないものと思われます。
▲目次へ戻る▲特定化学物質など何種類かの化学物質を取り扱っています。
こうした物質のうち、過去に取り扱ったことがあるだけで、取り扱いをやめた後も特殊健康診断を定期的に行わなければないない物質がありますが、何故ですか。
特定化学物質を製造若しくは取扱うなど、有害な業務に従事する労働者に対しては、安全衛生法第66条第2項前段の規定により、雇入れの際、当該業務への配置換えの際及びその後、原則として6月ごとに1回、定期に医師による健康診断(特殊健康診断)を実施しなければなりません。
また、同条同項後段により「有害な業務で、政令に定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする」とあり、ご質問はこのことを指しているものと推測します。
ところで世の中には何万種類もの化学物質がありますが、その中には人体に有害な物質が、未知のものを含めてたくさん存在します。
中でも、発がんをはじめ、神経や循環器・呼吸器その他重要な健康障害を生じることが判明している、または疑いが強い物質については、その程度により製造禁止物質、第一類特定化学物質、第二類特定化学物質、第三類特定化学物質に分類・指定されています。
ちなみに、第一類特定化学物質とは微量でも健康障害をもたらすもので、取り扱いは特に厳重であり、製造には厚生労働大臣の許可が必要となっています。
また、第二類特定化学物質は慢性障害を予防すべき物質で、発生源を密閉する装置または局所排気装置の設置などが義務付けられております。第三類特定化学物質は設備からの大量漏洩事故による急性健康障害を防止するための、一定の管理が必要とされている物質のことです。
この中で特殊健康診断が義務付けされているのは、製造禁止物質、第一類特定化学物質及び第二類特定化学物質(エチレンオキシドを除く)に限られますが、そのうち発がん性が疑われている物質については、過去に製造若しくは取扱う業務に常時従事させたことがある労働者で、現在も会社で使用されている者についても、製造、取扱い等をやめた後も同様の健康診断を実施しなければなりません。
こうした物質を、特定化学物質障害予防規則では「特別管理物質」と総称し、長期にわたって管理する必要があることから、特別管理物質にかかる健康診断個人票につきましては、他の物質と異なり30年の長期にわたり保存することも義務付けられています。
ご承知のように、発がんなどは症状が現れるまでに長い時間がかかる場合があり、こうした障害を生じる可能性がある物質については、取り扱いをやめたあとも継続した健康管理が必要だという理由からです。
特別管理物質は以下のとおりです。(安全衛生法施行令第第22条第2項)
トルエン、アセトンなどの有機溶剤を使用していますので、年に2回、特殊健康診断を実施していますが、毎回、同じ検査を行わなければならないのでしょうか。年2回の検査のうち1回については、検査項目を省略することは可能でしょうか。
事業者は、法令で定められた有機溶剤業務に従事する労働者に対しては、雇入れの際、当該業務への配置替えの際およびその後6月以内ごとに1回定期に、業務の経歴の調査、既往歴の調査、有機溶剤による自覚症状及び他覚症状、有機溶剤の代謝物の検査結果、尿中の蛋白の有無その他の検査を実施しなければなりません。
しかし、54ほどある有機溶剤の種類によって検査項目が異なるほか、特定の有機溶剤について実施すべき検査項目があったりもします。
また、物質によっては検査の省略も可能ですが、大変複雑になっていますので、有機溶剤の種類ごとに必ず実施すべき項目、特定の有機溶剤について実施すべき項目、医師が必要と判断した場合に実施しなければならない項目及び検査項目の省略について説明します。
有機溶剤の種類に関わらず、必ず実施すべき項目は以下のとおりです。
以下は、別表の左欄に示した有機溶剤について、それに応じた項目について別表右欄に掲げる下記の検査を実施すべきとされています。
以下の検査は、医師が必要と認める場合に行わなければならないことになっています。
次に、上記5の「尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査」については、前回の定期健康診断で同検査を受けたものについて、医師が必要でないと認めるときは、これを省略することができます。つまり、年2回の検査のうち1回については医師の判断で省略することが出来ることになります。
これの省略の基準については、通達「有機溶剤中毒予防規則第29条及び鉛中毒予防規則第53条に規定する検査のための血液又は尿の採取時期及び保存方法等並びに健康診断項目の省略の要件について」で示されております。
(詳しくは
http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-30/hor1-30-8-1-0.htm)
それによれば、次に示す条件をすべて満たす場合、医師が必要でないと認め、尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査の実施が省略できるとされています。
従いまして、トルエン、アセトンを使用する場合、トルエンについては、上記1〜4の検査のほか、5の「尿中の有機溶剤の代謝物である尿中馬尿酸の量の検査」を行い、医師が必要と判断した場合に実施には、これらに加え9〜13の検査を実施します。
また、尿中馬尿酸の量の検査は、連続過去3回の有機溶剤健康診断において異常と思われる所見が認められないこと他を条件に、年2回の検査のうち1回については医師の判断で省略することが出来ることになります。
次にアセトンについては、上記1〜4の検査を行うほか、「尿中の代謝物の量の検査」等の検査は行いません。但し、医師が必要と判断した場合には、9〜13の検査を実施することになります。
有機溶剤等 | 検査項目 |
エチレングリコールモノエチルエーテル(別名セロソルブ) エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(別名セロソルブアセテート) エチレングリコールモノブチルエーテル(別名ブチルセロソルブ) エチレングリコールモノメチルエーテル(別名メチルセロソルブ) | 血色素量および赤血球数 |
オルト-ジクロロベンゼン クレゾール クロルベンゼン クロロホルム 四塩化炭素 1,4-ジオキサン 1,2-ジクロルエタン(別名二塩化エチレン) 1,2-ジクロルエチレン(別名二塩化アセチレン) 1,1,2,2-テトラクロルエタン(別名四塩化アセチレン) | GOT、GPT、γ-GTP(以下肝機能検査という) |
キシレン | 尿中メチル馬尿酸 |
N・N-ジメチルホルムアミド | 肝機能検査尿中N-メチルホルムアミド |
スチレン 尿中マンデル酸 | |
テトラクロルエチレン(別名パークロルエチレン) トリクロルエチレン | 肝機能検査尿中トリクロル酢酸または総三塩化物 |
1,1,1-トリクロルエタン | 尿中トリクロル酢酸または総三塩化物 |
トルエン | 尿中馬尿酸 |
二硫化炭素 | 眼底検査 |
ノルマルヘキサン | 尿中2・5ヘキサンジオン |
※上記指定の有機溶剤が5%を超えて含有されている物質を製造または取り扱う場合にも検査が必要です。
▲目次へ戻る▲ある資料の中で金属による中毒の欄に、カドミウム・錫の記載がありその対象業務に半田とありましたので、鉛健診のほかに受けるべき検査があるのかお尋ねします。
(2) 「暴露例」について当院に通院の方で、半田作業を長年しておりその頃から喘息が止まらないため、その作業が原因ではないかとの疑問をお持ちの方がおり、労働災害報告を通してそういった事例があるのかどうか知りたいのです。
半田は、錫と鉛の合金です。鉛については、鉛中毒予防規則において、鉛健康診断が義務付けられております。なお、もう一つの成分である錫についての規制は、労働安全衛生法とその関連規則を調べましたが見当たりませんでした。
また、じん肺法においては、はんだ付けの作業は対象となっておりませんので、じん肺健康診断には該当しません。はんだの融点は183℃です。その程度の加熱でのヒュームの発生は、じん肺を心配するほどではないのかもしれません。
(2) 「暴露例」について申し訳ありませんが、半田作業における鉛中毒の発症例は見当たりませんでした。
フラックスの煙に刺激性があります。フラックスとは、半田付けをするときに使う松ヤニ状の薬剤です。フラックスの成分を調べましたが、判明しませんでした。もし、患者さんがお使いのフラックスのメーカーがわかるのでしたら、メーカーにお尋ねになるのも一法かも知れません。
▲目次へ戻る▲合成樹脂製品を製造する工程において、プラスチック材料(鉛化合物を含む)を合成樹脂射出成型機に投入する作業があります。この作業が鉛作業にあたるかどうか、特殊健康診断を受けさせるべきかわかりません。
取扱っているプラスチック材料には、鉛中毒予防規則第1条の4の61番目の鉛化合物(鉛分を1%以上含有する)が含まれています。しかし、当該場所は、同規則第1条5の鉛業務の「へ」の鉛化合物を製造する工程ではなく、「チ」のゴム若しくは合成樹脂の製品を製造する工程における鉛の業務にはあたらず、鉛中毒予防規則に非該当ではないかと思われます。この解釈は間違えでしょうか?
「鉛化合物を含むポリマー」の内容は、有機物の重合体に鉛化合物が含まれていることと思います。ただ、鉛化合物が混合状態なのか化学的に結合状態になっているのかは、わかりません。文面からは、鉛安定剤を原材料に添加というのは、単に混合しているだけで反応過程があるようには思われません。
一次製品のポリマーはふつうパチンコ玉かビーズ玉くらいの大きさです。この段階でホッパーに投入しても作業者が鉛に暴露することは考えにくいです。射出成型機をあけた時に雰囲気もしくは蒸気に鉛が含まれているかどうかは、加工の温度によると思われます。ただ、鉛が溶融あるいは蒸発するような温度(融点320℃、沸点1700℃)では、高分子は焼損しますので、あまり心配はないように思います。確実なのは、作業環境測定で鉛が検出されるか一度調べるのがよいと思います。
こまかな状況がわかりませんので、的がはずれているかもしれません。不足があればお知らせ下さい。
▲目次へ戻る▲介護職員などの腰痛健康診断の際にチェックすべきポイントは。
既往歴(腰痛に関する病歴及びその経過)及び業務歴の調査、自覚症状(腰痛、下肢痛、下肢筋力減退、知覚障害等)の有無の調査をしてください。また、「職場における腰痛予防対策指針」(平成6年9月6日付け基発第547号)を参照してください。
▲目次へ戻る▲レーザー光線を取扱う業務の健康診断は、年何回行えばよいのですか。
厚生労働省の行政通達(昭和61年1月27日・基発第39号)では、雇い入れ又は配置換えの際に視力検査に併せて、前眼部(角膜、水晶体)検査及び眼底検査を実施すれば良いことになっており、年何回というのはありません。
▲目次へ戻る▲赤外線・紫外線にさらされる業務の特殊健康診断は、年何回実施が必要ですか。
6ヶ月以内ごとに定期に実施することになっています。ちなみに、紫外線、赤外線の健康診断は、行政指導に基づく健康診断で、昭和31年5月18日付け基発第308号通達で示されています。健診項目は、業務歴、既往歴、自覚症状・他覚症状の有無、視力(遠・近距離)検査になっています。
紫外線、赤外線にさらされる業務とは、
@ 電気による溶接、切断又は接着を行う業務
A (抵抗溶接作業を除く)
B ガスによる溶接、切断を行う作業
C アーク灯又は水銀アーク灯の操作を行う作業
D 赤外線乾燥において、赤外線の直射を受ける至近距離における作業
E ガラス若しくは金属を溶解又は加熱(温度摂氏700度以上に限る)する操作における炉前作業若しくは温測作業又はそれらの溶解物若しくは加熱物の運搬(平杓子で運搬するものを除く)する作業又は圧延その他の加工作業
F 電球等の光源製品の寿命を検査する作業
G 人工光源を用いてレンズ等の光学ガラス製品を検査する作業となっています。
▲目次へ戻る▲騒音職場がある工場の産業医をしています。
この工場では、年1回の定期健診で1000hzと4000hzの聴力検査を行っていますが、それに異常があった人に対する二次健診を実施しておりません。
事業主には厚労省の騒音障害防止のためのガイドラインを提示して、再三再四、二次健診の詳しい聴力検査実施を促していますが、「努力義務」との認識で実施が実現しません。
ガイドラインは事業主に義務付けるものではないのでしょうか。説得力のある根拠を示すことはできないでしょうか。
騒音の問題について、理解の無い経営者にいかに労働衛生の大切さをわかってもらうかがこの問題の本質だと思います。
等価騒音レベル85db(A)以上の騒音作業は、製造業の有害業務としていまでも最多ですし、推定100万人以上の労働者が騒音職場で働いているといわれています。
しかし騒音健診の受診者数は年間20万人強に過ぎず、騒音性難聴の労災認定は年間500件前後を推移したままです。
騒音性難聴とは、慢性的に長時間にわたって騒音に曝露されて発症する慢性進行の感音難聴の一つですが、現在、騒音性難聴には有効な治療法はありません。また騒音作業による健康障害は個人差が大きいことから、各人の騒音健診結果から就業措置を講ずることは非常に大切ですが、ご相談のケースのように一般健診で代用されているような状況では、それ以降の保健指導や就業措置が不十分となる可能性があり、大変危惧されるところです。
ではどうするかですが、一般健康診断所見で聴力に異常があったものに対して、産業医として精密検査を受けるよう指示すべきではないでしょうか。労働安全衛生法第13条第3項には、「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。」と規定しているところです。
そして精密検査の結果、騒音性難聴と診断される、あるいは「疑いが強い」とされる場合は、その結果をもとに会社に対応を求めたらよいと思います。
作業環境測定の結果も良くない場合は、設備や作業方法の改善が必要です。
また、設備の改善が無理ならせめて耳栓の着用は必要ですし、その耳栓が本当に効果があるのか、耳栓チェッカーで実験する方法もあります。
耳栓チェッカーは2000Hzの音を耳栓着用時と未着用時に聴かせ、遮音性を見るものですが、通常の聴力測定器でも代用可能です。ちなみに、当支援センターでは産業保健スタッフ向けに、無料で聴力測定器を貸し出しています。
その結果、耳栓が十分着用できていないようであれば、正しい着用の方法を指導したり、併せて騒音についての共通認識を深めてみることです。そうすれば、異常があった人への二次健診についても理解が得られるのではないでしょうか。
このように騒音健診が十分行われていない背景としては、ガイドラインは行政指導であり、義務化されていないことなども影響しているものと思えます。
「騒音障害防止のためのガイドライン」は、労働省労働基準局通達(基発第546号)ですから、厳密に言えば強制力はありません。もちろん罰則規定もありません。
つまり、ガイドラインに従わなくても会社が罰せられることはありませんので、それを良いことにガイドラインを無視する会社は、現実に存在します。
しかし意味がないかというとそうではなく、仮に損害賠償訴訟などが提起されると、裁判所はガイドラインにそって判断するのが一般的です。
ガイドラインや通達などは行政機関内部のものですから、法律、政令、省令のように絶対的な強制力(法源としての規範性)を持っていませんが、法令の有力な解釈ではあることは否定できませんし、裁判所も考慮要素の一つとしてガイドラインを参考にするはずです。
また、実際の裁判でも、通達を参考にして裁判官が判決を導き出すことはよくありますし――通達を根拠に判決するかしないかは裁判官次第ですが、――法廷の場で「通達に書いてある・書いてない」という論証を行うことはよくありますので、事業者がこれを無視することは大きなリスクを背負っていることと同じです。
つまり、罰則はないものの「決まり」と思っていいでしょう。
ちなみに、騒音性難聴は退職後に労災補償請求がなされることがあります。そうした意味で在職中からの取り組み、つまり騒音予防の教育と職場環境の改善、健康管理に重点を置いて、騒音性難聴を予防することは大切だと思います。
▲目次へ戻る▲エポキシ樹脂を使用している職場があります。当社では、以前から、エポキシ樹脂取扱い作業者に対する健康診断を行っておりますが、法的にも健康診断は必要なのでしょうか?
健康診断については、安全衛生法やじん肺法など法律で実施が定めているもののほか、行政指導(昭和31年5月18日付け基発第308号「特殊健康診断指導指針について」ほか個別の通達)により特殊健康診断を実施するよう勧奨されている業務が約30種類ほどありますが、「エポキシ樹脂」の取扱い業務は、これらには含まれておりません。
しかし、その一方で、エポキシ樹脂取扱者に対する健康診断を実施しているケースが見られますが、その理由は、以下によるものと思われます。
エポキシ樹脂は、分子構造の相違や分子量の大小によりビスフェノールA型、ビスフェノールF型、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルアミン型等様々なタイプがありますが、1957年頃よりエポキシ樹脂の経皮感作性が報告されており、また呼吸器への障害も1950年ごろより知られていました。
これらエポキシ樹脂のなかでは、ビスフェノールA型が最も汎用されていることから、接触皮膚炎の報告はビスフェノールA型によるものが多いようですが、ビスフェノールF型エポキシ樹脂による接触皮膚炎例も報告されています。また、エポキシ樹脂を硬化させる際に加える硬化剤にも刺激性、感作性毒性があり、硬化剤による接触皮膚炎や肝障害も報告されています。
なお、エポキシ樹脂硬化剤(公表名 6-フェニル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン・ホルムアルデヒド縮合物と1,3-フェニレンビス(メチルアミン)・アクリロニトリル付加物の反応生成物)については、厚生労働省の「新規化学物質の有害性の調査結果に関する学識経験者の意見について(報告)」の中で、微生物を用いる変異原性試験の結果、弱い変異原性が認められるとされた化学物質一覧に含まれており、エポキシ樹脂硬化剤として使用される4‐クロロ‐オルト‐フェニレンジアミンについては、IARCでグループ2b(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)に分類されているとしています。
このように、エポキシ樹脂については、以前から有害性が指摘されていたものですが、さらに平成15年8月11日、厚生労働省労働基準局長から「化学物質等による眼・皮膚障害防止対策の徹底について」(基発第0811001号)という通達が出されました。
通達では、安衛則第594条に規定する皮膚に障害を与える物として、ビスフェノールA型及びF型エポキシ樹脂を指定し、これについては、眼・皮膚の障害の発生を防止するために適切な保護具の使用等を徹底するとともに、「眼又は皮膚に障害を与える化学物質等を取り扱う業務に従事する労働者については、当該化学物質に係る労働安全衛生法第66条第2項に基づく健康診断を受診している者を除き、事業者は安衛則第44条又は第45条に基づく定期健康診断実施の際、当該労働者がばく露するおそれのある化学物質等の名称及びその有害作用、ばく露することによって生じる症状・障害等に関する情報を化学物質等安全データシート(MSDS)等を用いて当該健康診断を行う医師に通知の上、自覚症状及び他覚症状の有無の検査にあわせて眼又は皮膚の障害の有無の確認を求めることが望ましいこと。」としています。
つまり、改めて特殊健康診断を実施する必要はありませんが、定期健康診断における自覚症状及び他覚症状の有無の検査の際に、エポキシ樹脂使用による眼・皮膚の障害の有無を確認するのが望ましいということです。
▲目次へ戻る▲労働安全衛生法では、一般健康診断、特殊健康診断を、罰則を伴ったものとして義務付けています。しかし、VDT健診はそれとは別ですので、強制的な義務ではありません。
VDT健診は、古くは昭和60年の通達によりますが、現在有効なのは平成14年4月5日付、基発第0405001号通達「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」に定められています。
これは通達ですから、強制力はありません。ただ、「VDT作業についてはこのような管理が必要である」と公に示されているのですから、それを怠った場合には民事的な意味で責任を追求される恐れはあります。
ぜひ「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を読まれることをお勧めいたします。